スポンサーサイト

    上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
    新しい記事を書く事で広告が消せます。
    町山智浩 映画 FC2 Blog Ranking

    『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』と『ジーザス・キャンプ』がわかる『エルマー・ガントリー』【2009年5月14日アメリカ映画特電第82回】

     管理人のaCuriousManです。リクエストを頂いていました、映画特電の第82回です。映画特電のコラムは町山さんのトークの熱量も深さも半端無く、どうしても文字に起こすのに時間がかかってしまいますね・・。でも、その分、毎回毎回、内容は素晴らしいです。この回は、『エルマー・ガントリー』という映画の解説となっていますが、最後まで読めば、3つの映画の背景とアメリカの政治経済をも動かすと言われている、キリスト教福音派の歴史までわかってしまうという、町山さんらしい、知識教養に溢れた解説になっています。当然オススメですね。

     『町山智浩のアメリカ映画特電』に関しましては、『EnterJam』http://enterjam.com/のサイト上で、現在もポッドキャストを配信中ですので、以下にリンクを貼っておきます。

    バックナンバー第81回~第95回 町山智浩のアメリカ特電
    第82回 2009/05/14 up『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』と『ジーザス・キャンプ』がわかる『エルマー・ガントリー』

    ~Setup~
    20年代アメリカ、流れ者のセールスマン、エルマー・ガントリー

     このポッドキャストは、あの・・アメリカに遊びに来てください!変な所にいっぱい連れて行きますから・・の、ホラー小説家(笑)、平山夢明さんと、アメリカやヨーロッパのDVDやブルーレイが日本語で簡単に手に入るオンラインショップ、DVD Fantasium の提供でお送りします。

     はい、こんにちは。町山智浩です。今日もカリフォルニア州バークレーの自宅からお送りしてます。え~、今週の日曜日、17日の日曜日のですね、夜11時半から、僕が松嶋尚美さんとやってるテレビ番組の、『松嶋×町山 未公開映画を観るTV』ってのがあるんですね。東京MXTVでやってるんですけども。それで『ジーザス・キャンプ』(『ジーザス・キャンプ ~アメリカを動かすキリスト教原理主義~』原題: Jesus Camp)という映画を紹介するんですが、それにちなんで今日はですね、アメリカのキリスト教原理主義っていうか、福音派キリスト教徒のことが良く分かる映画、『エルマー・ガントリー』(『エルマー・ガントリー/魅せられた男』原題: Elmer Gantry)についてお話しします。

     はい、というわけでね、東京MXTVというUHF局で、ま、ケーブルとかで観れるみたいですけど。あと、テレビ神奈川でも観れるみたいですが。松嶋尚美さんと一緒に『松嶋×町山 未公開映画を観るTV』っていうのを毎週日曜日夜11時から放送してます。それで、今週日曜日の5月17日放送がですね、『ジーザス・キャンプ』というドキュメンタリー映画なんですけども。これは、現代のアメリカで行われている、キリスト教の福音派、悪い言葉で言うと、「キリスト教原理主義」っていうですね、ま、非常に、聖書の教えを一字一句信じる人達の、子供たちを養成するサマーキャンプですね。それのドキュメンタリー『ジーザス・キャンプ』を放送するんですけども。

     まあ、その内容はそっちを観てもらうとしてですね、一体、こういうキリスト教福音派っていうのは何処から出てきちゃったのか?というのがですね、よく解らないと思いますので、それが非常に良く解る映画を紹介します。

     1960年にリチャード・ブルックスが監督、脚本をした、『エルマー・ガントリー』というハリウッド映画です。これは、1960年に作られてますけど、舞台となるのは1920年代の、20年代から30年代にかけてのアメリカが舞台です。「エルマー・ガントリー」ってのは主人公の名前です。

     映画の頭ではですね、このエルマー・ガントリー(バート・ランカスターっていう俳優がやってるんですけども)が、酒場で飲んだくれて、口八丁手八丁でみんなをいろいろ操ってですね、喧嘩してみんなをブチのめして。それで、女をコマして、ヤリまくって逃げてしまう、というですね、あの・・最低の、まあ、旅行くセールスマンですね、流れのセールスマンの生活が見られます。

     アメリカではこういった流れのセールスマンていうのが、昔はいっぱいいたんですね。有名な映画では、全く同じ時代を背景にした、『ペーパー・ムーン』(原題:Paper Moon)という映画で、ライアン・オニールが演じてた聖書のセールスマンがそうだったんですけども。

     元々、聖書のセールスマンからアメリカのセールスマンは始まった、って言われてますね。つまり、開拓期に、アメリカのいろんな田舎の方に散らばった開拓者達にですね、聖書を訪問販売する、という。え~、なんて言うか、ハッキリ言って詐欺みたいなことをしている人達から、アメリカのセールスっていうものが始まったらしくて。

     ポーラ化粧品ていうのがありますけども、あれは訪問販売の非常に伝統的なものでですね。エドワード・シザーハンズ、『シザーハンズ』(原題:Edward Scissorhands)って映画の中でも、ダイアン・ウィーストが演じてたポーラレディっていうのが出てきますけども。こう、ちょっとなんて言うか、訪問販売をしながら物を売るっていうのとですね、各家を訪ねて、
    「あなたは神を信じますか?」
    って言うのは、ちょっと似てるんですね。元々、同じようなモノなんですね。

     訪問販売をすることで寂しい人達の話を聞いてあげたりしながら、心を和ませて、それで物を売りつける、というのと、全く根が同じ所にあるんですね。つまり、キリスト教の伝導師達が、荒野を旅して宗教を広めていったっていうのと、ちょっと似てて。アメリカの資本主義っていうのは元々、キリスト教の伝導と結びついているんですよ。

     で、このエルマー・ガントリーって男はですね、最初はただのセールスマン、ていうか詐欺師、ですね。インチキなものを売ったり、まあ、よくいる、なんて言うか、アメリカでは「へびオイル」って言うんですけど、「へびオイル」ってのは重い(ヘビー)オイルじゃなくて、蛇、「スネークオイル」ですね。・・・を、売る、っていう商売があってですね、これ、日本のガマの油売りと同じですね。面白いのは、ガマの油売りっていうのは蛙から採った油を売ってることになってるんですけど、アメリカでは蛇から採った油を売るんですよ。(笑)・・・でも、やってることは同じなんですけども。要するに、
    「これを飲むと、凄くキクぜ。」
    とか言って、
    「なんでもキク、万能薬だ!」
    つって、
    「ウソだよ~、オマエ!」
    とか言って、そこに変な男が来て、
    「ウソついてんじゃねーよ、オレに飲ましてみろ!」
    と言って、飲むと、
    「お~!効いてきた!!」
    つって、サクラなんですけども。(笑)・・・。

     そういうことをアメリカではやってたんですけども。これって、宗教と同じなんですよね。
    「神様に祈れば、歩けるようになる!」
    とか言ってですね、それまで車椅子にいた人が急に歩けるようになる。芝居をする、というのと非常によく似てて。

     アメリカでは元々、あこぎな・・・いわゆる、なんて言うか、あの・・・「テキ屋」ですね(笑)。え~、詐欺師、あの、「寅さん」ですね。寅さんはそうですね、セールスマンていうか、ま、道端でテキ屋をやってますけども。あの人も、地元のヤクザに挨拶をして、その地元で開かれるお祭り、神社のお祭りとかでインチキなものを売る、と。 インチキなものっていうか、ま、要するに、「火事で余った物」とか言ってますけども、殆どが盗品だったりするわけですけども(笑)。そういうのを売る、という「寅さん」。

     で、「寅さん」の後ろに宗教があるんですね、アメリカは。まさにこの「エルマー・ガントリー」っていうのは「寅さん」なんですよ。ハイ。・・・ただ、寅さんよりもケンカが強くてですね、女にモテる、というね。

     このバート・ランカスターっていう俳優はですね、元々この人は非常に勉強が出来たんですけど、貧しくて「軽業師(かるわざし)」をやらざるを得なかったんです。「曲芸師」、アクロバットですね。で、サーカスで働いてたんですけども。本当は物凄く勉強が出来て、NYU(ニューヨーク大学 New York University)かなんかに入れたんですけども、金が無かったんですね。で、アメリカ各地をまわって、見世物をして暮らしてた、っていう点で、このエルマー・ガントリーっていうキャラクターと非常によく似たところがあるんですね。まああの・・・旅回りのドサ回りをしてた見世物師なんですね。

     で、この人はその後、映画俳優になった後もですね、軽業師なんで全身筋肉の塊なわけですよ。で、映画に出ると大抵、裸で大暴れする、というですね(笑)。で、スタントマンは絶対使わない、っていう、肉体俳優・・っていうか「肉弾俳優」だったんですね。

     ま、その後、シュワルツネッガーとかシルベスター・スタローンとか出てきますけども、肉弾俳優では。ただ彼らは、スタントマンを使うんですよ。結構。・・・スタローンとかシュワルツネッガーはスタントマンを使うんですよ。ただ、バート・ランカスターは使わないんですね。使うわけ無いですね。元々軽業師なんでね(笑)。それが仕事なんですよ、スタントが。

     僕がこの人を、生まれて初めて、見て、衝撃を受けたのは『スコルピオ』(Scorpio)っていう映画なんですね。それは、アラン・ドロン扮する殺し屋と、元CIAでCIAを裏切ったバート・ランカスターの追跡劇を描いたスパイ・アクションだったんですけれども。中で、延々とセリフ無しで、今で言う「パルクール」・・・パルクールってわかりますよね?007のこの間のやつにも出て来ましたし、『ハルク』(『インクレディブル・ハルク』原題:The Incredible Hulk)の中にも出て来ましたけども、あらゆる障害物を越えて、どんどんどんどん、街の中を越えて飛び回っていく、『ヤマカシ』(Yamakasi - Les samourais des temps modernes)って映画もありましたけど。あの「パルクール」の元祖みたいなことをですね、アラン・ドロンとバート・ランカスターの追っかけでやるんですけども。

     バート・ランカスターはこの時、60を過ぎてるんですよ。え~(笑)、ところが全然スタントマンを使わないでですね、もう、ビルの窓から飛び降りたりですね、もう、メチャクチャなアクションを展開するんですね。それで、僕は、初めて観た時、バート・ランカスターっていう人がどういう人か全然わからないんで、
    「このジジイ、スゲ~・・・アタマ、どうかしてるよ!!」
    っていうですね。延々と自殺アクションを繰り返す、と。

     アラン・ドロンもその頃、まあ、肉弾俳優で。結構、この人自身も戦争に行ってディエンビエンフーの戦いに参加してる、元ヘリコプター隊員なんですけど、フランス軍の。ただ、それをもう・・まさしく超える、トンデモナイ肉弾ジジイだったのがバート・ランカスターなんですよ。

     その後も、ま、テレビとかでバート・ランカスターの映画を観ると、まあ、とにかくスゴイんですね、この人は。この人の映画でアクションがスゴイのは『真紅の盗賊』(The Crimson Pirate)って映画で。これは海賊映画なんですけども。まあ、いわゆるその、本物の船を使ってですね、船から船へ飛び移ったりですね、もう、そういう・・・まあ、この人の仕事だったわけですけども(笑)。まあ、軽業師としての仕事をバンバン見せてくれる、と。

     あともう一つ凄いのは、空中ブランコですね。空中ブランコってのは、サーカスの空中ブランコの話なんですけど。この人やっぱり、元々サーカスですから、仕事ですから、スタントマン無しで空中ブランコをバンバンやってみせるんですよ。

     あとですね、『真昼の暴動』(Brute Force)って映画があって、刑務所で酷い目にあってるバート・ランカスターが大暴動を起こすんですけども。ま、これももう、全身筋肉の塊で大暴れするんですが、この映画は物凄く面白いんで、今度お話したいと思いますが。ハイ。

     ・・・と、いうですね、まあ、ジャッキー・チェンの元祖みたいな人ですね。ただジャッキー・チェンと違ってですね、セックスバリバリ!なんですね(笑)。この人、凄い逞しい顔とガッチリした顎にですね、白い歯がズラッと並んでる、というですね、スゴイ・・・・ま、男の塊、「セックスの塊」みたいな男なわけですよ。どんなことがあっても、
    「ニカッ!」
    と笑って
    「オレにまかしとけ!!」
    みたいな男なんですけども。

     この人はカーク・ダグラスと非常に仲が良くて、カーク・ダグラスも肉弾俳優ですけど。カーク・ダグラスは元、レスリングをやってたのかな?で、2人でですね、非常に仲良くて、一緒にいろんな映画に出てますけども。昔はこういう・・・筋肉の塊みたいな人達がいたんですが、ただ、面白いのは、バート・ランカスターもカーク・ダグラスも、政治的には左派なんですね。物凄い・・・反体制的な人なんですよ。反保守なんですね。シュワルツネッガーとかスタローンとかチャック・ノリスとか、あの人達が政治的に凄く右なのと比べると、面白いなと思いますね。

     バート・ランカスターってのは、後半どんどん、文芸作品とか出て、もっと政治的な俳優になっていくんですけれども。この『エルマー・ガントリー』はそのきっかけになった映画ですね。この映画でアカデミー賞になって、バート・ランカスターは、
    「オレは、ただケンカしたり高い所から飛び降りたりするだけの筋肉バカじゃねえぞ!!」
    って所を見せてですね、俳優として認められるようになった映画が、この『エルマー・ガントリー』って映画なんですけども。

     で、まあ、ヤクザなセールスマンていうか、テキ屋をやってる、寅さんをやってるエルマー・ガントリーがですね、教会に突然ふらっと立ち寄ると、黒人教会なんですね。それで、ゴスペルを皆歌ってるんですね。で、そこに入って、黒人たちがゴスペルを歌ってるとこに入って、いきなりバート・ランカスターが歌い始めるんです。ゴスペルを。すると、どんな黒人より、声が太いんですよ!(笑)。黒人より声の太いヤツなんですね、コイツは。
    「オ~~~!!」
    って感じで歌いあげて。
    「ウオ~~~~~~!!!!」
    ってスゴイ声で歌いあげて、黒人たちが度肝を抜かれて、
    「何だこいつは??」
    (笑)。メチャクチャ歌上手いです、っていう感じでですね、
    「ニカッ!!」
    と笑うんですね、またバート・ランカスターが。

     この人、ホーボーもやってて、セールスマンて言いながら無賃乗車して移動してるんですけども(笑)。まあ、ヤクザなんですね。マーロン・ブランドがよく映画でやってた「ホーボー」ですね。『ピクニック』(Picnic)って映画でウイリアム・ホールデンがやってた、ま、不狂人ですね。鉄道にふらっと乗っては、町から町へ移動する人達の1人なんですけども。

     ところがそこでですね、ある日突然、キリスト教の伝導をしてる女性を見てしまうんですね。サラっていう女の人なんですけども。このサラっていう人を見てですね、バート・ランカスターは、
    (ヤリてえ!)
    と思うんですね(笑)。エルマー・ガントリーは、
    (ヤリてえ!この女をヤリてえ!!)
    って思ってですね(笑)、その、彼ら伝導集団の中に、キリスト教伝導集団の中に入っていく、と。そこから物語が本格的に始まっていくんですけども。

    ~Conflict~
    流れ者はカリスマになり、人々は大教会へ導かれて行く

     とにかく、このサラっていうのは非常に、ま、聖女みたいな人なんですね。で、キリスト教の伝導をしてるんですけども。彼女にはモデルがいてですね、その当時、本当に聖女としてアメリカ全土で大人気だった、エイミー・センプル・マクファーソンていう人がいて、その人をモデルにしてるんですね。

     で、エルマー・ガントリーは中に入って行ってですね、優しい伝導をしている所へ入ってきて、全然違う伝導をやるわけですよ。このエルマー・ガントリーっていうのはセールスマンなんで、脅したり透かしたりするのが(ま、ヤクザなんでね)、得意なんですね。だから、いきなり、
    「お前らは罪人だ!!」
    ってやるんですね。
    「お前らは地獄に堕ちるぞ!!!」
    って、
    「このまま神を信じないで、ウソばっかりついてる、オマエらみんな地獄行きだ~!!!」
    「死ぬと地獄だあ~!!」
    ってやるんですね(笑)。

     するともう、みんな、田舎の人達は皆怯えてですね、
    「あ~、助けて~・・ゴメンナサ~イ・・・」
    という感じでですね、
    「どうしたら救われるんですか~(T_T)?」
    ってなっちゃうんですけど。そこへあの、美しいマリア様の様なサラが現れてですね、
    「大丈夫。ご心配無く。神様はなんでも許します。あなた達はみんな、許されるんですよ。」
    って言うんですね。

     すると、それまでもう徹底的にエルマー・ガントリーに、
    「オマエは死ぬと地獄だ!エ~!!」
    って言われてたんで、ハッと救われてですね、
    「あ~、ありがとうございます。私は神様に帰依します。」
    って皆なっちゃう、というですね。そういうことをして段々、人気を得ていくんですね。

     ところが、ま、これはいわゆるトリックでですね、これ、「良い警官、悪い警官のトリック」って言うんですよ。あの・・・警察に尋問される時にですね、まず若手の刑事がですね、
    「オマエ・・・いつまで黙ってるつもりだ、この野郎!!!」
    つって、バン!!って机を叩いたり、
    「オマエなんか、絶対に死刑にしてやる!!」
    とかなんとか言って、徹底的に追い詰める若い警官てのが出てくるんですね。ガン!!とかいって殴ったり蹴ったりする場合もあるんですけども。

     で、ところがそこでですね、「山さん」みたいなですね、年取ったベテランの刑事が来てですね、
    「ちょっと!ちょっと君、オレにまかしてくれないか・・・。」
    って言って、そいつをその部屋から出すんですよ。取調室から。すると、ポンと肩を叩いてですね、その犯人、取り調べを受けている者の肩を叩いて、
    「かつ丼でも食うか。」
    って言うんですね。で、かつ丼を食べている間に、暖かい気持ちになってくるわけですね、その取り調べを受けている者が。すると、
    「・・・お前は・・何処で生まれたんだ?・・新潟か?」
    「今頃あっちは雪が降ってるだろうな・・・。」
    「お前のおふくろさん・・・どうしてるかな・・・?」
    とか言うんですね、そのベテラン刑事が。すると、
    「わかりました、刑事さん!私がやりました~・・・・(涙)」
    とか言うんですよ(笑)。

     ところがその取調室のですね、防音ガラスの向こうから見てるのは、さっきの若い刑事なんですよ。で、それを見ながら、
    「さすが山さん、ベテランだな・・。落としたよ・・・。」
    とか言うんですけども。

     要するに、これはトリックなんですね。若手刑事がガンガン!ガンガン!て暴力で追い詰めて、そこに温情刑事が出てきてですね、ふと、心を和ませると、相手は落ちてしまう、と。これは実は宗教的テクニックだったんですねえ。これは洗脳のテクニックだったんですよ。この『エルマー・ガントリー』っていう映画は、宗教における洗脳のテクニックが非常に良く分析されて描かれてるんですね。

     この映画の原作者は、シンクレア・ルイスという作家なんですけども。この小説は1927年に、まさにその、キリスト教伝導師達がですね、福音運動をしまくっていた真っ最中に書いた小説なんですね。

     で、この『ジーザス・キャンプ』の中で出てきたり、今現在ですね・・・現在ってわけでも無いですけどもブッシュ政権は終わりましたけども、ブッシュ政権を支持していて、ブッシュ政権を支えてきて、共和党政権をレーガン政権以来ずーっと支えてきた、キリスト教福音派と言われる人達がいるんですね。これがアメリカで爆発的運動になったのは、その1920年代なんですよ。まさに『エルマー・ガントリー』で描かれている時代なんですね。

     この時代にいったい何があったのか?ってことをちょっと、説明するとですね。ちょっと遡るんですけど。

     まず南北戦争がありまして。南北戦争で南部っていうのはずっと、奴隷を使って農業をやって、物凄く・・・お金を持ってたわけですけれども。それが南北戦争で負けて崩壊するわけですね。で、そこで働いていた黒人たちは、みんな、シカゴとかデトロイトの方に流れて行ってですね、いわゆる北部の工業化社会で働くんですけれども、南部の白人達はそこに取り残されちゃったんですね。南部に。で、どんどん貧しくなって行くわけですよ。

     で、いわゆる「リコンストラクション(reconstruction)」て言うんですけれども、南部の復興っていうのを何度もやろうとしたんですけれども、なかなか出来ない、と。南部の経済は破壊されたままになってるわけですね。

     特に1900年代に入ってから、北部の方で工業化が徹底的に進んで、産業革命みたいなことになるんですね。つまり、鉄鋼業とかですね。自動車産業も出てきます。で、もう、アメリカは工業社会になっていくんですね。世界一のGDPを誇るですね、大産業国家になっていくんですけれども、完全に南部はそこで取り残されていくわけですね。更に、1920年代の後半になるとですね、29年に大恐慌が起きましてですね、もうホントにみんな貧乏で、何処へも行き場が無くなっていくんですよ。

     そういった、その1920年代の南部の、非常に貧しくなっていく状況の中で、頼るものが無くなって近代化から取り残されていく中で、出てきたのが、
    「キリスト教へ戻ろう!」
    「信仰を取り戻すんだ!」
    という、「キリスト教回帰運動」というものなんですね。要するに、
    「我々はキリスト教を忘れている。」
    ということで、貧しい人達がキリスト教へ逃げ出して行く、と。逃げこんで行く、ということなんですね。

     これは、日本でも全く同じようなことが起こってて。特に、戦後の高度成長期の中で取り残された労働者とか、非常に貧困な人達が、宗教、新宗教、新進宗教に入って行く、と。創価学会であるとか、いろんな宗教ってのは、戦後、労働階級とかですね、貧困層の中で広がって行ったんですけれども。それと同じ事がアメリカで起こるんですね。

     ただ、その時に一番、凄くメディアとしてですね、武器になったのがラジオなんですよ。ま、その頃テレビは無いですから。1920年代にラジオが始まってですね、ラジオを使って、伝導師達がガンガン伝導をするんですね。キリスト教の伝導を。

     で、これがですね、地元の教会・・・ちっちゃい教会にみんな通ってたわけですけど、貧しい人達も・・・の、教会では何も救われないのに、何故かラジオを聴いてると、凄く救われてる気がするんですね。ラジオの中では、
    「地元の教会はダメなんだ。」
    「腐敗してしまったんだ。」
    と。
    「まともにキリスト教をちゃんとやろうとしないから、聖書から離れて行っちゃったから、こういう貧しい事態になってしまったんだ。」
    と。で、
    「聖書に、本当に戻りましょう!」
    と。
    「完全に聖書に戻って、聖書の教え以外信じないようにしましょう。」
    ってことをラジオで放送する、と。

     そうすると、みんなラジオを聴くことでですね、地元の教会に行くよりも、もっと、なんて言うか、天からの声を聴いている様な気持ちになっていくんですね。それでどんどん、地元の教会に行かなくなって、ラジオに寄付したりですね、するようになるんですね。

     ラジオ伝導師で一番有名なのはビリー・サンデーという人がいましてですね、この人はもう、大成功するわけですけど、20年代に。えーと、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(There Will Be Blood)って映画が公開された時に、実は僕はこのアメリカ特電でこの『エルマー・ガントリー』の話をするべきだと思ったのはですね、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』で出てくる若きラジオ伝導師の名前がですね、イーライ・サンデーって言うんですね。これはあの、ビリーサンデーっていう実在のラジオ伝導師のパロディなんですよ。

     で、あの中でも、石油産業がどんどん出来てきて、アメリカが石油化されて行く中で取り残された百姓の人達が、貧しい農民達が、キリスト教に頼る、という、キリスト教にすがる、ということが非常に良く、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』って映画では描かれてたんですけれども。

     実は本当の話だったわけですね。『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』を観てわからなかった、みたいな人はですね、是非、この『エルマー・ガントリー』って映画を観てもらうと、いったい、その時にアメリカで何があったのか?それで、その時に爆発的に広がったキリスト教福音派運動っていうものが現在に通じている、と。それで『ジーザス・キャンプ』って映画も理解出来る、ということなんですけども。

     で、エルマー・ガントリーはですね、まあ、才能があるわけですね。口八丁手八丁で喧嘩も強いわけですけども(笑)。それでどんどん、その、サラの持っているキリスト教伝導団体をですね、巨大化させていくわけですよ。そこへですね、不動産屋とかが介入してくるんですねえ。つまり、
    「これだけ儲かるんだったら、大きい教会を作ろう。」
    と。そうしたら、みんながそこに旅行して、旅して、
    「礼拝に来るだろう。」
    と、いうことでですね、ある町がですね、彼らを誘致するんですね。

     これも実際にあったことで、ラジオ伝導師達はですね、「メガチャーチ」と言われてる、超巨大教会をですね、作るんですよ。要するにまあ、何万人も収容できるようなですね、スタジアムみたいな教会を作って、そこに遠くでラジオを聴いてた人達が、年に一回とかね・・・礼拝に行く、と。お伊勢参りみたいなもんですよね。で、みんながわざわざそこへ通ってきて、おみやげを買ったり、ホテルに泊まったりするんで、お金を落として行く、ということなんですよ。まあ、もちろんお布施も持ってきますしね。

     で、その「メガチャーチ」、巨大教会を作ろう、みたいな話になってくるんですね。で、
    「これは儲かるぞ!」
    と。ちなみに、バート・ランカスター、エルマー・ガントリー達はもう既に、ラジオ放送も始めてるわけですよ。どんどん、凄いことになっていくんですけども。

     ま、段々ですね、逞しいし、ヤリ手でビジネスマンのエルマー・ガントリーに対してですね、この女の、サラっていうのはですね、段々まあ、好きになっていくわけですね。ま、男らしいですからね。とにかく、
    「この人はスゴイわ。」
    って感じで、ちょっと・・・ま、惚れていくわけですね。で、そこまでじっくり待ってからですね、エルマー・ガントリーが、
    「どうだい、オレのこと、好きかい?」
    ってやるわけですよ。でも、サラは、神に自分を捧げたんで、処女でいたい、と思ってるんですけれども、やっぱり、負けちゃうんですよ。バート・ランカスターの魅力にね!

     もう、だって、見るからにセックスの匂い(笑)、っていうか、スゴイ身体してるわけですからね。それで、白い歯で
    「ニカーッ!!」
    と笑うわけですからね。歯がキラキラ輝いている、っていう。あの、もしこれ、アニメだったりしたら、歯がキラっと光る音が、
    「キラ~ン☆」
    て聞こえそうな男なわけですよ。ね。

     で・・・やっぱり負けちゃうんですよ。それでまあ・・セックスしちゃうわけですけども。したらねえ、やっぱりねえ、あの・・・言っちゃあなんですけど、もう、女の人は・・・アレですよ。神様とかは考えられなくなっちゃうわけですよ。で、もう、
    「アナタ、好き!大好き!」
    みたいな感じでですね、もう、恋の奴隷になってしまうわけですね、エルマー・ガントリーの。

     これは実際あった話なんですねえ。

     これは、エイミー・センプル・マクファーソンていう、さっき言ったラジオ伝導師の女性がですね、ある日行方不明になりまして。で、誘拐された、みたいな感じで大騒ぎになったんですけども。実は、男に狂って駆け落ちしてたんですね、ハイ。で、それが後でバレたりして、この団体はダメになっちゃうんですけれども。ま、それをモデルにしてるんですよ。

     そういうことを、シンクレア・ルイスっていう人は・・・書いちゃったんですね、リアルタイムで!で、そのビリー・サンデーっていうラジオ伝導師からはですね、
    「アイツは悪魔だ!!」
    とか言われたりするんですけども。

     あ、ちなみにですね、このシンクレア・ルイスって人はですね、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』の原作の『石油』を書いたですね、アップトン・シンクレアと名前が似てるんですけれども、全然親戚じゃ無いんですね。ていうのは、アップトン・シンクレアはシンクレアが名字なんですけどシンクレア・ルイスはシンクレアが名前なんですよ(笑)。ところがですね!このシンクレア・ルイスはアップトン・シンクレアの弟子だったことがあるんですね。もう・・ややこしいんですよ(笑)、この2人は。全然、他人なんですけど(笑)、たまたま弟子だったんですねえ。で、おんなじ様にですね、キリスト教福音派のことを書いてるんですねえ。面白いですねえ・・・これねえ・・。

     ちなみに、そのアップトン・シンクレアっていう、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』の方の原作を書いた人はですね、その後、社会主義者となってですね、選挙に出たりするんですけど。その時に、彼の選挙を支援してたのは、あのロバート・A・ハインラインていう作家なんですね。彼は元社会主義者だったんですよ。ロバート・A・ハインラインはその後ですね、物凄いタカ派の、右翼の女の人と再婚してですね、急に右翼に転向するんですけど(笑)。あの(笑)・・・まあ、男や女で、人間は変わるんですね、ハイ。

     ということでですね、『エルマー・ガントリー』に戻りますとですね。で、エルマー・ガントリーがですね、もう・・サラを自分の恋の奴隷にしちゃったわけですよ。もう、何もかも順調ですね。それで、大教会を作ってですね。

     ところがですね、このエルマー・ガントリーはいろんなものと闘い始めるんですね。つまり、闘うことによっても、宗教を広めて行く、ということで。

     まず、進化論と闘うんですね。この頃ですねえ、進化論裁判みたいなものがアメリカであってですね。1930年代か、あれは。つまり、アメリカの学校で進化論を教えてはいけなかったんですよ。
    「神は人間を創りたもうた。」
    と。だから、猿から進化したなんてのは、
    「嘘っぱちだ!」
    ということで、それを学校で、
    「進化論を教えちゃいけないんだ!」
    みたいなことで、裁判になったりしてたんですね。で、それを背景にしてますんで、
    「進化論なんてふざけんじゃねえ!!」
    と。
    「人間は神様が創ったんだ!」
    「猿から進化したなんて、トンデモナイこと言ってんじゃねえ!!!」
    とか言って、もう・・・進化論叩きをするんですね、このエルマー・ガントリーは。

     で、もう、いろんなものを叩くんですけども、取り敢えずキャンペーンを、そういうことをすることでもって盛り上げていく、ということで、信者を増やすためなんですけれども。

     そこで今度はですね、
    「売春とか、許せねえ!!」
    と。
    「売春なんか・・・もう・・潰せ!!!」
    つってですね、松明を持ってですね、その街の売春地帯に殴り込みをかけたりするんですけども、そこで、ある女と出会っちゃうんですねえ。その女の人ってのは、まあ、あの、娼婦をしてるんですけれども。
    「アンタじゃないの?」
    って言われちゃうんですね、エルマー・ガントリーは。それは、なんて言うか・・・昔、エルマー・ガントリーが犯した女なんですね。

     カソリックの教会に、実はエルマー・ガントリーは通ってて。なぜ宗教や聖書に詳しいか、って言うと、神学校に通ってたんですよ。彼は子供の頃。ところが、10代の若い頃にですね、そこの神父の娘さんをですね、犯しちゃったんですね。で、犯して、逃げちゃったんですよ(笑)。やり逃げ、なんですけども。で、やり逃げされた方はですね、それでもう、親から勘当されちゃって、行き場が無くなって、娼婦になっちゃった、と。ヤクザの・・ま、ヒモにやらされてるわけですけども。その彼女がいたんですね。それで、
    「アンタじゃないの!私をこうしたのはアンタでしょ!」
    ってことになっていくわけですね。

     で、
    (しまった~!)
    みたいな感じで、
    (やべ~!)
    って、エルマー・ガントリー、やべー!って感じになるわけですね。
    (これはマズイな。)
    と、いうことになっていって、もう、彼にとって時限爆弾になるわけですね、その彼女が。

     その、娼婦に落ちぶれてしまった、元カソリックの娘っていうのは、シャーリー・ジョーンズっていう女優さんが演じてるんですけど、この人、あの、『人気家族パートリッジ』(The Partridge Family)のお母さんですよ。・・・って言っても、わからない人にはわからないと思いますが(笑)。昔、テレビで人気があった、家族全員でバンドをやってアメリカ中を旅する、っていうパートリッジ一家があって、そこのお母さんなんですけども。彼女はこの演技でですね、アカデミー助演女優賞かなんかにですね、選ばれてるんですけれども、なかなか・・・良いですね、彼女は。非常に美しくて、本当は清らかな魂を持っているんだけれども、汚されてしまった、という役なんですよ。この辺、非常に上手いんですけれども。

     それで、彼女はですね、なんとかこのエルマー・ガントリーに復讐してやりたい、と思ってですね、彼とのスキャンダルを作ってですね、ハメようとするわけですよ。エルマー・ガントリーを。エルマー・ガントリーもですね、彼女に悪いことをしたと思ってるから、ハマってしまうんですけども、この辺の展開が非常に泣かせるんで。
     (女の人っていうのは、いったい、何なんだろう?)
    と思わせる意外な展開なんで、映画を観るまで言いませんけれども、ハイ。

    ~Resolution~
    宴の終焉、エルマー・ガントリーは神に目覚めたのか?

     で・・・ここから先、どんどん、ネタバレになるんでね、映画を観てから聴きたい、っていう人は聴かないでもらった方がいいかな?もう、これ以上は言うと、グズグズになってしまうんで、アレなんですけども。ただ、この映画の終わりの所は、ちょっと、言っとかないとならないんですが・・・。

     で、メガチャーチを作る、みたいな話になってるんですけど、大教会を作る前に取り敢えずサーカスのテントでですね、伝導をしてるんですね、このサラとエルマー・ガントリーは。この辺も良く出来てて。要するに、サーカスのテント、見世物小屋と、おんなじなんですよ。このキリスト教の伝導っていうのは。

     だからもう、レベルとしては本当に低いものなんですね。サーカスの・・・見世物をやってたバート・ランカスターがやってて、しかも元テキ屋でですね、インチキセールスマンなんですから。それが宗教をやってるんですよ、実際は。現実には。そういうことなんですよ。ただ、それをまあ、非常にハッキリと描いちゃってるわけですけども。

     で、やってるとですね、火事が起こっちゃうんですね、そのテントで。それで火が燃え始めるんですけども。そうすると、その火を見てですね、それまで、
    「私は、神に全てを捧げます!」
    とか言ってた連中がですね、もう、周りの人を押しのけて自分だけ助かろうとするんですよ。
    「どけ、どけ~!!」
    とか言ってですね。もう、誰一人として他の人のことを考えないで・・・火事から逃れるためにですね、人を蹴っ飛ばしてですね、逃げて行くんですね。

     それを、バート・ランカスター、エルマー・ガントリーが見て・・・ちょっと、呆然とするわけですね。
    (なんだ・・・・。)
    ってことですね。

     サラっていう、キリスト教に心を捧げてる、全てを捧げてる女性だけはですね、そこに残って、誰かを助けようとしてですね、火に巻かれて死んでしまうわけですけれども。

     で、何もかも焼け落ちた後でですね、人々が、
    「私は、自分のために人を押しのけて逃げてしまいました。私は地獄に堕ちるんでしょうか?!」
    とか言って、今頃になって泣いてるわけですね。それを見て、凄い、暗澹(あんたん)たる顔になるんでね、エルマー・ガントリーは。
    (・・・何なんだ?)
    と。
    (お前ら、さっきまで、「神を信じます」「自分の命を捧げます」と言ってたじゃないか!)
    と。
    (結局、自分のことしか考えて無いじゃないか!お前らは!)
    って顔をしてるんですね。
    (何なんだこれは、もう・・・。こいつら最低だよ・・・)

     でも、ですね、その時エルマー・ガントリーは彼らに対してですね、
    「大丈夫です。神様は・・・あなたを・・救います。あなたを許します!」
    って言って、その人達に、許しをあげるんですよ。

     これは、彼が神に目覚めたわけでも、何でも無いですよ。
    (あ~、人間てのは弱い物なんだ。)
    と。
    (神様に救われなきゃなんないんだ。)
    (救われなきゃならない、生き物なんだな・・・。)
    という、諦めですね。憐れみですよ。 それで、
    (こいつらには神様でもやっとくか!)
    っていう感じですよ(笑)。で、賛美歌を歌うんですよ。
    (この人達には、神様がお似合いだぜ!)
    ってことですね。

     その後、その伝導グループの本当のリーダーの人がですね、
    「彼女は死んだけれども、サラは死んだけれども、サラの意志を継いで、この後も伝導を続けてくれないか?」
    と言うんですね、エルマー・ガントリーに。そうすると、エルマー・ガントリーはですね、それを断るんですけど、断る時にこう言うんですね。
    「私はかつて、子供だった。」
    と。
    「子供だった時は、子供のように考えて、子供のように話して、子供のように理解していたんだ。」
    と。
    「でももう、私は大人になった。」
    「もう、子どもじみたことは止めるんだ。」
    そう言って、去っていくんですよ。キリスト教と袂を分かつんですね。

     彼が言った言葉は、実はでも、聖書の言葉なんですね。その言葉はですね、『コリントの信徒への手紙』の13章11節の引用なんですね。これは何なのか?これはよく、結婚式でアメリカでですね、引用されるんですけども。これは要するに、
    (もうアンタ、大人になったんだから、もう遊ぶのはおやめなさい。)
    って言うような(笑)意味でですね、聖書の言葉を引用したりするんですけども。

     これを最近引用した人はオバマさんですね。オバマさんはこの言葉を引用して、
    「もう、子どもじみたことは止めろ。」
    って言ったのは、イデオロギー的抗争を止めるんだ、って意味で使ってましたね。市場原理主義がいいのか?市場原理主義は間違ってるのか?小さな政府がいいのか?大きい政府がいいのか?っていうことで、右と左の、ずっとイデオロギー闘争は行われてきた、と。アメリカの中では。それはもう、お終いにしようよ、っていう意味で、
    「子どもじみたことは止めるんだ。」
    という、聖書の言葉を引用したんですけれども。

     この場合、エルマー・ガントリーが引用したのは何か?って言うと、彼は、
    「大人になった。」
    って言ってるんですね。つまり、この悲劇を通して大人になったんだ、と。人間てものが見えてしまったんだ、と。宗教ってものも全部底が見えてしまったんだ、と・・・いうことをいってるんですよ。
    「あ、こんなものだったのか・・」
    と。

     もちろん、自分に惚れたサラっていうのは、自分に虜になってしまって、宗教を捨ててしまった、っていうことも意味してるんですけれども。
    「人間って、この程度のものなんだ。」
    と。

     もう一つは逆に、サラが、身を捧げて火の中で焼かれて死んでいった、っていうことも・・・彼にとっては、人間の、良い例、ですけれども。その様な素晴らしい、サラという女性が、偶然の火事によって焼かれてしまう、ってことは一体、どういうことか?
     「神様はいない」
    っていうことですよね。良い人ですら、いきなり死んでしまうわけですね。

     『羊たちの沈黙』っていう小説の中でですね、レクター博士が研究してるものっていうのは、教会が崩れて、それで死んでしまった人達、ってのがいっぱいいる、と。それについて調べてる、というふうなことを言ってるんですけども。つまりそれは、教会で神様を信じてる善男善女が、たまたま教会にいたためにですね、死んでしまうとしたならば、神様はいない、ってことですよね?

     まさに、この『エルマー・ガントリー』ってのは、それなんですよ。

     ただ、その中でも希望っていうものも見せてるんですね。そのサラっていう人が、キリスト教を信じることによって、良い人でいた、ということも一つですし。ただ、人間てのは自分のために周りを押しのけてしまう、っていうのも事実だし。そして、そういう人に限って、神様を信じていると言っている、と。

     いろんなものを見てしまったんですね。エルマー・ガントリーは。で、
    「オレは大人になったよ。」
    と。
    「もう、こんな子どもじみたことは止めるんだ。」
    って言って、教会から去っていく・・・という話なんですね。

     だから、キリスト教の伝導師のビリー・サンデーは、
    「こんなものは許せねー!」
    つって、
    「ふざけんじゃねえ!!」
    と。
    「神様の否定だ!!」
    つって怒り狂ったわけですけども、ビリー・サンデーはその後ですね、息子達が、金持ちになっちゃってですね、散々スキャンダルを起こしまして。酔っ払ったり、女狂いやったりして、メチャクチャやってですね、言ってることとやってることが全然違う、っていう状況になった上に、彼のまわりにいた娘とかですね、家族が次々と死んでしまうという。それも、いろんな病気になったり、事故とかで次々と死んでしまうということで、もし神様がいるとしたならば、なんでこんな、神様を一番信じてると言っているビリー・サンデーのまわりに不幸ばっかりやってくるのか?ということで、信者が離れていったんですよ。

     ねえ。・・・さっき言った、エイミー・センプル・マクファーソンも、男と駆け落ちしたことで信者が離れて行きました。キリスト教伝導師、福音派の伝導師の多くがですね、そういった形で、スキャンダルを起こして、どんどん信者が離れて行く、というのを繰り返してるんですね。

     で、この『ジーザス・キャンプ』の中で出てくるですね、テッド・ハガードっていう人がいるんですけども、この人は、キリスト教福音派教会の会長なんですね。つまり、こういった原理主義者のトップにいる男なんですけども。この人はしょっちゅう、
    「同性愛は聖書が禁じている。」
    と。
    「君がゲイ的行為をした、ってことは神様はお見通しだ!」
    と。
    「地獄に行くぞ!!」
    って言ってたんですね、テレビとかでは。

     ところがこの人は、3年間もですね、ゲイの愛人と肉体関係があったことが暴露されまして、まあ、一気に地に落ちましてですね、評判が。で、それがちょうど、2006年のアメリカの中間選挙とぶつかりまして、キリスト教の福音派の人達は非常に幻滅して、選挙に行かない、という状態で、民主党が大勝する、という事態が起こりましたね。

     まあでも、しょっちゅう、キリスト教の伝導師の人達は、売春スキャンダルとかですね、お金のスキャンダルとかですね、愛人スキャンダルとかですね、同性愛スキャンダルとか、次々と起こしてるんですよ。で、その度に信者は幻滅して他の所に行くんですけれども、いつまでたっても、そこから完全に抜け出すことが出来ない、と。

     まさにその、エルマー・ガントリーが言ったみたいに、大人になって、子どもじみたことを止めることが出来ない・・・ということが続いているんですね。ハイ。

     ということで、まあ、『エルマー・ガントリー』、是非、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』と『ジーザス・キャンプ』と、併せて御覧になると、非常に、アメリカが良く解る・・・・。

     ということで、また、来週か再来週(笑)・・・ハイ。ということで、皆さんのご質問をお受けします。メールでどしどしお寄せください。こういう映画を観たんだけどタイトルがわからない、とかですね、アノ映画のここの所はいったいどうなってんのか良く解らない、とか。そういった質門を、是非お寄せください。

     ハイ。ということで、日曜日の、『松嶋×町山 未公開映画を観るTV』の『ジーザス・キャンプ』、是非御覧になってください。あと、今回のお話の中で出てきたいろんな映画ですね、『真紅の盗賊』とかですね、『エルマー・ガントリー』はもちろん、いろんなバート・ランカスターの映画は、アメリカ版がDVD Fantasiumで買うことが出来ますので、是非・・・ちょっと覗いてみてください。よろしくお願いします!

    スポンサーサイト
    町山智浩 映画 FC2 Blog Ranking

    コメント

    以前リクエストさせていただいた者です
    お疲れ様です!好きな回だったので嬉しいっす
    ありがとうございましたm(_ _)m
    No title
    分かりやすくて面白いまとめをありがとうございます!
    シンクレア・ルイスは写実的で背景の色々を描くので、スタミナ0の私は何度も休みながら読んでます(笑)。
    よって小説エルマー・ガントリーもまだ序盤しか読んでないのですが、研究者さんの本を読んだのでチラッと。
    原作だと教会炎上は中盤で、懲りないエルマーはサラの基盤を継いであれやこれや発展させたのに
    うっかりヤクザの女に手を出しちまって(爆)
    教会に通ってくれてる弁護士先生を、教会の基金で雇って解決させたんだそうです。
    それで「神様アンガトーッ!!俺ホントに今日から信じます!」といった〆になるのだと(大草原)。
    こんな男をちゃんとした方向に仕上げる映画製作とバート・ランカスターって凄い人たちだと思いました!

    コメントの投稿

    非公開コメント



    上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。