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    町山智浩 映画 FC2 Blog Ranking

    『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』(Life of Pi) 作品賞 視覚効果賞 他計11部門ノミネート

    2013年1月10日に第85回アカデミー賞ノミネート発表がありました。こちらには、町山智浩さんが以前にノミネート作品関連について紹介してきた中から、主に御本人のトーク部分のみを抜粋、一部再構成して掲載します。

    ノミネート部門

    作品賞 視覚効果賞 編集賞 音響編集賞 音響賞 美術賞
    監督賞     アン・リー
    脚色賞     デヴィッド・マギー
    撮影賞     クラウディオ・ミランダ
    歌曲賞     『パイズ・ララバイ』(Pi's Lullaby)
              by ボンベイ・ジャヤシュリ(Bombay Jayshree)
    作曲賞     マイケル・ダナ

    2012年11月27日『たまむすび』より

     これは、世界的ベストセラーになっている『パイの物語』(Life of Pi)っていう本がありまして、今までずっと、映画化するって言って、いろいろ失敗したりしていて、今回、とうとう映画化が完成したっていう映画です。この『ライフ・オブ・パイ』って映画は、本当にホントに、不思議な映画なんです。

     

     話が何処に向かってるか、最初の方とか全然わかんなくて、非常に困っちゃう映画なんですけども、まず説明しますと、舞台は、1970年代のインドです。動物園があって、その動物園の経営者の息子が「パイ君」です。最初の方は、ニックネームなんですけども、そのパイって名前がなんでついたかっていう話とか、お母さんとお父さんの馴れ初めとかで、子供の頃学校で変な名前なんでいじめられてた話とか、延々と続くんです(笑)。すごく美しいインドの風景とかが出てきて、あと、女の子に初恋をしたり、いろんな神様がいるわけですけど、どの神様が、自分自身が信じるべきか、ってことで、インドだからヒンズー教徒なんですけども、カトリックにもふれてみたり、イスラム教もためしてみたり、いろんなことをして神探しをする、っていうシーンが前半続くんですね。

     これ、話はどこ行くんだ?と思ってると、突然お父さんが、「うちはカナダに行く」っていきなり言うんです。インドから移住するってことで、動物園もたたんで、動物園ごと、「カナダ行くから!・・お前らも一緒に来い!」って言うんです。実際、カナダっていうのはインド系の移民の人が多いんです。で、船に乗って、それも日本船籍の日本の貨物船に乗って、インドからず~っと・・・東南アジアの方を廻って、フィリピンの方を廻って、太平洋を渡ってカナダまで行く、という旅に出るんですね、動物をつれて。シマウマとかいろんな動物ごと、いっぱいオリに入れて運んで行くんですけども、途中でもの凄い嵐が来て、その船が沈没しちゃうんです。

     脱出用の救命ボートにパイ君は乗るんですけども、お父さんもお母さんも乗れなくて、誰かがオリの鍵を開けて動物が逃げ出しちゃって、代わりにシマウマが乗ってくるんです。あと、オランウータンも乗ってくるんです。そのボートだけが、ちゃんと下に降りて、それ以外の船のは、全部まるごと沈んでいくんです、ガーっと。で、パイ君とオランウータンとシマウマだけが助かるんですね。と、思ったら、そのボートの中にハイエナが乗ってたんです。ハイエナがいきなりシマウマを食って、噛み殺しちゃって、オランウータンも噛み殺しちゃうんです。弱肉強食のボート世界になるんですよ。自分でもナニ言ってんだかよくわかんないですが(笑)

     そうしたら、今度そのハイエナが、ババーっと、巨大なトラに襲われるんです。その救命ボートにでっかいトラトラも乗ってたんですね。で、そのハイエナを喰い殺すんですけども、そこからその救命ボートで、太平洋で、誰も助けが来ない状態で、トラとパイ君がずっと漂流し続けるって話に展開して行くんです。なんの話だろうと思いますが、あとはもう、サバイバルです。喰われちゃうからトラとは同じボートに乗れないんで、浮き輪を使って筏みたいなものを作って、それでボートからロープで引っ張ってもらって、パイ君はその筏の上に乗るんです。救命ボートをトラにトラれちゃってるんですよ(笑)。これからどうするかってことで、凶悪なことに、トラって泳げるんで、あんまり怒らせると泳いでこっちに喰いに来るわけで危険だから、釣りをしてその餌をトラに与え続けることで、トラは、自分が餌を与える人間だってわかったら、殺しちゃったらトラも飢え死にしちゃうから殺せなくなるっていうことで、トラに餌を与え続けることで共存しながら漂流していく、っていう話になっていくんですね。

     で、この映画、言ってて「ナニ言ってんの?」って感じじゃないですか。観てても、どこまでがホントなのか嘘なのかわからない、不思議な映画なんです。さっき船が沈むって言いましたが、巨大な貨物船が沈んでいくんですけども、貨物船、夜だから、嵐が夜にくるんで、いろんなライトを点けてるんですね、いっぱい。で、そのまんま沈んでいくんで、海の底で自分自身を照らしてるんで、パイ君が海の上から、船がず~っと沈んでいくのが見えるんです。真っ暗な海の中を、自分自身を照らしながら沈んでいく船が。でもこれ、有り得ないですね。嵐が起こってる状態の海ってのは、濁ってるからもの凄く透明度が低くなってるはずなんです。それなのに完全にクリスタルみたいな海なんで、これは、有り得ないわけです。そういうシーンが連続してくるんですよ。

     例えば、もの凄く凪のシーンがあるんです。海が完全な凪の状態になるんですけども、完全な凪になって、海面が鏡みたいになるんですよ。鏡みたいになって、空が夕焼けなんですけど、夕焼けが海に写ってどこまでが空でどこまでが海だかわからなくなるんですけど、そんな凪は無いですよねえ!

     これ、CGで全部撮影してて、3D映画なんで3Dメガネをかけて見るんですけども、この映画のポイントは、海で、パイ君が出会う異常な光景を、次々と観客が、パイ君と一緒に体験していくっていう、映像体験のところにポイントがある映画だったんです。もの凄いキレイなんです。例えば、夜になると、空いっぱいに星が出るじゃないですか、天の川とか。それが、海面に映るわけですよ。すると、海が宇宙みたいになるんです。だから、ハッキリ言うと、ナニかやってるような気分になってくるんですよ(笑)。観てると、ナニかわからないものが脳を刺激してるような気持ちになってくるんですけども(笑)・・・このトリップ感覚ってのはスゴイですね。

     観てる時に、1番感覚で近かったのは、『2001年宇宙の旅』(2001:A Space Odyssey)っていう映画があるんです。1968年ぐらいの映画なんですけれども、人類が木製探査船ていう宇宙船を造って、木星に飛んでいくんですが、そこに乗っていた乗組員が途中で、船自体のコントロールをしてるコンピューターに、主人公1人以外全員殺されちゃうんです。 宇宙船だから、温度の管理とか、いろんなものの管理は全部コンピューターがやってて、そのコンピューターが勝手に殺そうと思えば、殺せちゃうわけですね、宇宙飛行士を。

     で、宇宙船をコントロールしているコンピューターと、主人公の宇宙飛行士、たった2人・・というか、1人と1台で、宇宙を漂流する、っていう状態になるわけです。そこで体験する、全く、もう誰も見たことの無いような異常な宇宙の、いろんな光景っていうものを見せるのが、『2001年宇宙の旅』っていう映画だったんですが、それとソックリな感じなんです。太平洋を漂流しているっていう話なのにもかかわらず、宇宙にいるみたいな感じになってくるんですね。

     『2001年宇宙の旅』っていう映画自体は、ドイツの哲学者ニーチェの思想を、SF映画に置き換えたような内容で、具体的には、神っていうのはいるのかどうか?みたいな話になっていく、非常に哲学的な内容なんです。この『ライフ・オブ・パイ』も、そういう哲学的な方向にどんどん行くんですね。観客がそういうことを考えざるを得ないような体験をさせていくんです。

     しかもこの状況でサバイバルをやるのにいろいろ苦労するわけですよ。僕、知らなかったんですけど、海面で水を得るってのはどうやって得るのかな?と思ったら、ちっちゃいボートみたいのがあって、そこにビニールの傘がついてるんですね。そこに海面から、気化した水蒸気が傘にあたって、滴になって、水として、飲めるという状態になるんですね。これはホントにあるみたいなんですけど、そういうマシーンとかが出てきたり、そういったいろんなサバイバル技術が描かれながらも、そういう現実的な部分が出てきながらも、例えば、もの凄いトビウオの群れに遭遇したりするシーンとかスゴイんです。トビウオって空飛んでくるんですがそれがもの凄い群れで、まるで流星雨みたいな感じで、そこに突っ込んでいくシーンとかスゴイんですよ。口開けてれば、どんどんトビウオが口ン中に入ってくるんで、トラからすると食べ放題ですけどねえ。もう、言うだけでなんかわけわかんないでしょ?僕も観ててわけわかんなかったんですけど(笑)

     で、このトラの名前が、リチャード・パーカーっていって、主人公のパイ君はトラに対して、「リチャード・パーカー!」って、ずっと話しかけるんです。すごい普通のちゃんとした名前で、これ、なんだろう?と思ったら、リチャード・パーカーっていうのは船乗りにとっては非常に有名な名前なんです。

     昔々1838年に、エドガー・アラン・ポオっていう作家、江戸川乱歩の元になった人ですけども、彼がある小説を書いて、それが船が難破して漂流する話なんです。やっぱりボートで4人の男が取り残されて、食料が無くなるんですね。で、このままだと4人とも死ぬから、クジ引きで、クジで負けた人を殺して食おう、っていう話になるんです。で、負けて食われた人が、リチャード・パーカーだったんですね。これは小説なんですけども、なぜリチャード・パーカーって名前がそんなに有名になったかっていうと、その小説が書かれた50年後の1883年かなんかに、本当にそういう事件が起こって、リチャード・パーカーっていう人が殺されて食われちゃったんです。これは、ホントの話なんですが、たまたま、リチャード・パーカーっていう名前だったんですよ。

     で、リチャード・パーカーって名前にこのトラがなってるんですね。実はこの物語、『ライフ・オブ・パイ』っていう話は、最後の最後に「あっ!!」と驚くオチがあって、このリチャード・パーカーって名前がそのオチのヒントになってるんです。 原作を読んでる人だったらわかるんですけども、原作の方はあっ!と驚くラストだよ、って言われてたんで、僕は映画を観るためにわざと原作を読まないようにして行ったんですけど、びっくりしましたねえ。原作を読んだ人にとっては映画の映像体験が物凄いんで、そういう楽しみもありますけども、全然原作を読まないで行った人は、ラストで「え~?!!!」っていうねえ(笑)・・・「エー!!!」っていう感じです。最後に、そのオチを聞いた後、振り返って今までの話をもう1回頭の中で全部分析するんですね、何を言おうとしていたのかってことを。そうすると、いろんなことがわかってくるっていう、「あっ!ソウだったのか!」っていう感じなんです、この話は。

     これはすごい映画なんですけど、監督はアン・リーという台湾の人なんですね。この人は顔は前田吟にソックリなんですけれども、天才なんです。「だけど」って別に前田吟が悪いわけじゃないですけども(笑)。この人は台湾の人にもかかわらず、ありとあらゆる映画を世界中で撮ってる人なんです。この人が、非常に有名になったのは『グリーン・デスティニー』(臥虎藏龍 Crouching Tiger, Hidden Dragon)って映画で、中国を舞台にしたクンフー映画だったんですけども、その後、『ブロークバック・マウンテン』(Brokeback Mountain)ていうのを撮ってるんですね。これはアメリカの西部を舞台にした、カウボーイ同士の同姓愛の話なんです。カウボーイ同士が、山にこもってるうちにデキちゃうんですけども、その後、女の人と互いに結婚するんですが、互いのことが忘れられなくて・・・っていう話なんです。非常に切ない話でイケメン同士のセックスシーンも素晴らしいですが(笑)、これ、ゲイ映画で、ゲイカウボーイの映画でこの人はアカデミー監督賞を獲ってるんです。

     それを撮った後、中国に帰って、こんど中国では、日本が中国を占領していた時代に、中国人を裏切って日本側についていた男、っていうのをやっつけようとする、愛国青年隊の処女の女の子が、スケベな、悪い中国の役人を騙して、セックスの虜にしていくっていう話、『ラスト、コーション』(色、戒 Lust, Caution)て映画を作ってるんですね。ゲイのカウボーイの話からいきなりそっちに行くのか、って感じですけども、毎回作る映画が全然違うんですよ。(笑)『ラスト、コーション』なんて、セックスシーンがあまりにも強烈なんで、中国では7分間カットされたっていう結構、ギリギリの映画だったんです。

     そうかと思うと『ハルク』(Hulk)って映画を作ってて、それは緑の巨人ハルクが大暴れする話なんですけども、その映画を撮る時は、アン・リー監督自らモーションキャプチャーってシステムを使って、ハルクの役を演じてるんですよ。監督が、自分で「ウガ~!」とか言いながら暴れて、監督の動きをそのまんまハルクっていう怪物の動きにしてるんです。ハルクの正体は「前田吟」だったんですね!そういう、スゴイ、世界でもトップクラスの映画監督になったアン・リーの、今度はインドというか太平洋を舞台にしたトンデモナイ映画が、この『ライフ・オブ・パイ』です。

     これはホント、映像体験がスゴイんで、3Dですから、もうDVDとかじゃなくて是非、映画館で、この凄い、『2001年宇宙の旅』のような映像体験をしていただきたい、と思いました。

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    コメント

    No title
    とても魅力的な記事でした!!
    また遊びに来ます!!
    ありがとうございます。

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