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    町山智浩 映画 FC2 Blog Ranking

    『ゼロ・ダーク・サーティ』(Zero Dark Thirty) 作品賞 他計5部門ノミネート

    2013年1月10日に第85回アカデミー賞ノミネート発表がありました。こちらには、町山智浩さんが以前にノミネート作品関連について紹介してきた中から、主に御本人のトーク部分のみを抜粋、一部再構成して掲載します。

    ノミネート部門

    作品賞  編集賞  音響編集賞
    主演女優賞   ジェシカ・チャステイン
    脚本賞     マーク・ボール

    2012年12月11日『たまむすび』より

     これは、次々と批評家の選ぶベストテンとかで全部ベストワンを獲りまくってて、アカデミー監督賞、作品賞、全部獲るんじゃないか、って言われてます。

     スゴイのは、監督のキャサリン・ビグローっていう女性監督なんですけど、この人は、この前に撮った映画、『ハート・ロッカー』(The Hurt Locker)でもアカデミー作品賞、監督賞、獲っちゃってるんです。この人は、昔、モデルみたいなことやってて、ミュージックビデオとかにも出てた人なんですけど、『タイタニック』(Titanic)とか『アバター』(Avatar)の監督のジェームズキャメロンの前の奥さんです。スタイルとかはモデルみたいな感じの女性なのに、戦争映画みたいなのばっかり撮り続けてるんですね。前作のアカデミー賞を獲った『ハート・ロッカー』は、イラクで爆弾処理を続ける男とそれを理解しない奥さんの話で、奥さんの方からしたら、「そんな危ない仕事、やめりゃいいじゃないの!」みたいな話だったんですけども、今回は女性が主人公なんですね。

     軍事用語で、作戦行動とかする時に『ゼロ・ダーク・サーティ』って言うと真夜中の0時半て意味なんですが、これはあの、オサマ・ビン・ラディン暗殺計画を描いた映画なんです。オサマ・ビン・ラディンが殺されてから、これだけの短い期間で映画を作っちゃってしかも傑作ってのはスゴイなと思いました。

     『ゼロ・ダーク・サーティ』に関しては、ワシントン・ポスト紙とかに出てるのとほとんど同じで、そんなに軍事機密部分てのは無いんですけれども、ただ、これで初めて明らかになったのは、このオサマ・ビン・ラディンを見つけた人が女性だったってことです。キャサリン・ビグロー監督にインタビューに行ったんですが、僕もこれ、「映画用に女の人にしたんじゃないんですか?」って聞いたら、そうじゃないって言われて、「本当にオサマ・ビン・ラディンを発見した人は女性です。女性のCIAのスパイ・・局員です。」と。要塞みたいにした家が、パキスタンの結構高級住宅地のど真ん中にあって、そこにオサマ・ビン・ラディンが住んでたんですけれども、それを発見するまでが、まあ、大変な苦労だった、っていう話なんです。主人公はジェシカ・チャステインていう赤毛の女優さんなんですけど監督と非常に似てて、多分、自分も投影してるんです。というのは、この映画自体はオサマ・ビン・ラディンを発見しようとするCIA局員の話なんですけれども、その事実を描こうとする監督自身が重ね合わされてる感じなんですね。

     これ、いかに大変だったかって言うと、オサマ・ビン・ラディンは一切電話もしなければ、無線も使わない、インターネットも使わなかったんで、発見するのが非常に大変だったんです。で、彼女達が考えた、まず最初にCIAがやったっていうのは拷問だったんです。アルカイダのメンバーを捕まえては拷問して、居場所を吐かせようとしてたんですね、ずっと。

     これは非常に問題になって、拷問ていうのはアメリカ国内では犯罪だから、CIAはアメリカ国外で拷問してたんです。これは酷くて・・・ポーランドであるとか、シリアとかで、グアンタナモっていうキューバの軍事基地とか、アメリカ国外であれば、拷問しても別に関係ない、っていう感じでCIAが片っ端からそういう所までテロリスト容疑者を送っては、拷問してたんです。酷いことなんですけど、それから始まって、最初はこの主人公の女の人、マヤさんていう人なんですけども、拷問を目の前で見せられて、「こんなことは・・とんでもないわ・・・」って感じで、もう見てられないんですけど、その人がだんだん変わっていくんです。

     その拷問でいろいろ情報を掴んで、ずっと最初はオサマ・ビン・ラディンを探してたんですけど、これは罠だったんですねえ。ちょっと言えないんですけど、CIAは大損害が出て大変な事態になっちゃうんです。これは事実なんで知ってる人はいると思うんですけど、タリバンとかアルカイダってのはもの凄く頭がいいですから、自爆テロのテクニックが凄いんです。

     タリバンてのは元々、アフガニスタンでイスラム教の人達がゲリラとして戦った後、ソ連を追い出した後に政権を獲るってなって政権争いになったんです。最初、すごく穏健派のマスードっていう人が政権を獲りそうになったんですけれども、それと、そのイスラム教原理派のタリバンが政権争いをしてる時に、タリバン側がマスードに対して「私達は降参します」って言って、和平使節をおくったんですね。・・・で、マスードがその人に会ったらいきなり自爆されて全滅しちゃったんです。それがタリバンのやり方なんです。で、今のはヒントなんですけど、そういうことをやられちゃうんです。とにかく「情報をあげますよ」って言って出てきたと思ったらその人がいきなり自爆する世界ですから(笑)

     これでどんどん追い詰められていって、CIAのトップの方から、「もう10年ぐらい経つってのに何なんだ!何も見つからないじゃないか!」と。CIAとしては実はこれは大変なことで、まず、911テロを許したってのはCIAのミスなわけで、あと、イラクに攻撃を仕掛けちゃったんですけども、あれは完全に、911テロとも何とも関係なくて、完全に無実のイラクに対してブッシュが攻撃を仕掛けたんですが、それに対してOKを出したのもCIAの長官なんですよ!

     だから、CIAはこれに関してはスゴイ責任があるんです。さっさとオサマ・ビン・ラディンを捕まえてれば、イラク戦争も無くて何にもそういうことも起きないで済んだわけで、911テロ自体も防げたかもしれないわけですよ。だから、ホントにCIAのミスなんで、これはもうCIAの命を賭けて、なんとかオサマ・ビン・ラディンを見つけなきゃなんないってことになってくるんです。その中で主人公のヒロインの、マヤっていう女の人は、どんどん、どんどん、自分を殺して感情がだんだん無くなっていくんです。で、オサマ・ビン・ラディンを見つけるための完全にマシーンになっていくんですね。

     という、非常に怖い話で、最初この映画『ゼロ・ダーク・サーティ』が作られてるっていうことを聞いた時に、「これはオバマ政権の手柄を褒め称えるために作った、プロパガンダ映画じゃないか?」、みたいなことを共和党側が言ったことがあるんです。「オバマ政権は、彼らが映画を作りやすいように、映画スタッフに秘密情報を流してる」とまで言ったんです。で、映画を観ると全然そんなことはなくて、知られてる情報しか使われてはいないんですけれども、それ以前に、これは別に、アメリカがオサマ・ビン・ラディンを暗殺したことを褒め称えるわけでも批判するわけでも、全然無い映画なんですよ。

     これ、何処へ行くんだろう?っていうふうに思うんですけれども、とにかく徹底的に淡々と、どのようにしてオサマ・ビン・ラディンを発見するか、っていうのを見せていくんですね。結構「あっ!」とおどろく方法で見つけていくんですが、ま、言える部分で言っちゃうと、サウジアラビアのボンボンで情報提供者がいるんですね。金持って、チャラチャラと女遊びをしてるわけですよ。そいつが情報を持ってるって聞いた時にCIAはまず、「う~んと・・・・情報が欲しいんだけど・・・ランボルギーニとか欲しいかな?」って言うんです。いきなり、夜中に、ランボルギーニの売り場に行って、店に行って、もう閉めるって時に、「今からランボルギーニを買うから!」って言うんです。で、CIAがお金を出して「このランボルギーニ買ったから、情報を出せ!」って言うんですよ。「おう!店開けろ!ランボルギーニくれ!!」ってねえ・・・1回言ってみたいですよねえ(笑)

     ありとあらゆる買収から拷問から、全部やるわけですが、でもやっぱり、拷問で出た情報ってのは全然使えなくて、騙されちゃうんですけども。で、まあ、違う方向からオサマ・ビン・ラディンが見つかって、後半の30分から40分ぐらいはオサマ・ビン・ラディンのアジトを襲撃する部分を完全にリアルタイムで再現するんですが、それも凄くて、それに使うヘリコプターっていうのは、パキスタンの市内に入って行くわけで、パキスタンて国への・・・・まあ、完全な侵害行為なわけですから、パキスタン軍が出てくるかもしれないんで、ステルスヘリコプターってのを作るんです。

     それはレーダーにもひっかかんないし、音もほとんどしない、ってやつで、超低空を飛べるんですけども、それをナント、『エリア51』で開発するんです! 『エリア51』っていうのは、アメリカ空軍の秘密兵器の開発基地なんですね。だから、そこで実験してる秘密兵器を見てUFOだと思った人達がいる、といわれてるんです。そこで開発した、ステルスヘリコプターを使って襲撃を仕掛けるんですけども、そこから後は完全にリアルタイムで進行するんですね。だから本当に襲撃チームの中にいるみたいな感じになるんです。

     これも、オバマがなかなか攻撃命令を出さないあたりのジレンマが凄くよく出てて、もし失敗したらどうしよう、ってことで3ヶ月も4ヶ月もほったらかしにするんです。オサマ・ビン・ラディンの居場所はここだ、ってわかってからも何ヶ月も攻撃命令が出ないんです。「これは国際問題だし、こんなことはできない!もしオサマ・ビン・ラディンじゃなかったらどうするんだ!」と。「DNAかなんかの証拠は無いのか?!」とかオバマが言ってくるんで、全然攻撃が実行されないとか、その辺も描かれてるんです。

     赤江珠緒:かなり事実に忠実って思っていいんですか?

     もの凄く忠実みたいです。ていうのは、既に報道されてることが多いんで、それを映像で見せるっていうとこの面白さなんですけれども、ただこれは、この作戦自体を全く美化してないんです。それで、観た後に残るのは、ものスゴイ苦い気持ちしか残らないんです。

     昔『わらの犬』(Straw Dogs)って映画がありまして、ある平和主義者の男が、暴力が嫌いだから暴力の無い田舎に住もうとしたら、田舎でも暴力に襲われて、奥さんを守るために襲ってきた敵を皆殺しにする、っていう話があったんです。主人公が圧倒的に勝つんですけども、でもその最後に残るのはものスゴイ虚しさなんですよ。

     で、これも、オサマ・ビン・ラディンという標的を最後には仕留めるんですけども、残ったのは、「私達はとんでもない遠くまで行ってしまった。」と。「正義の為の戦いでもなんでも無くなってしまった。」っていうものスゴイ虚しさに襲われるっていう、非常に深い映画で、これはもう・・・アメリカ人達は観て、ものスゴイ暗い気持ちになると思いますね。『ハート・ロッカー』にも共通しますが、ただ『ハート・ロッカー』の場合には爆弾処理なんで、やってる事自体はいいことですが、こっちは暗殺計画で、しかも、大失敗に失敗を重ねて、10年もかかってしまってその間に、戦争を含めて何十万人も死んじゃってるわけです。

    水道橋博士:マイケル・ムーアが描くようなメッセージ性は無いんですか?

     メッセージ性は・・・最後にあります!それは、「どう思う?」っていう形で観客に突きつけるんです。ハッキリと口には出さないですが、ラストの方に、ある問いかけが1箇所あります。それに対して主人公は答えません。その答えは、アメリカ人や、世界の観客が答えることなんです。問いかけだけが残るんです。

     ただこの10年間でアメリカはオサマ・ビン・ラディンをやっと倒したけれども、その後残ったのは、アメリカっていう国力が、本当に世界1の国じゃ無くなっちゃいましたから。この10年間の、ブッシュ政権からずっと始まった、この対テロ戦争ってのはいったい何だったのか?っていう、ただ虚しさだけが残る、実質的にはアメリカの敗北じゃないか、ってとこまで、ラストでは暗示されてる感じです。

     『アルゴ』なんて、同じようなCIAの物を描きながら、これに比べたら遥かにライト級で、こっちはスーパーヘビー級のパンチを腹にボコっていれるような映画なんです。

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