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    町山智浩 映画 FC2 Blog Ranking

    『リンカーン』(Lincoln) 作品賞 監督賞 他計12部門ノミネート

    2013年1月10日に第85回アカデミー賞ノミネート発表がありました。こちらには、町山智浩さんが以前にノミネート作品関連について紹介してきた中から、主に御本人のトーク部分のみを抜粋、一部再構成して掲載します。

    ノミネート部門

    作品賞  編集賞  音響賞  美術賞
    監督賞     スティーブン・スピルバーグ
    主演男優賞   ダニエル・デイ=ルイス
    助演男優賞   トミー・リー・ジョーンズ
    助演女優賞   サリー・フィールド
    脚色賞     トニー・クシュナー
    撮影賞     ヤヌス・カミンスキー
    作曲賞     ジョン・ウィリアムズ
    衣装デザイン賞 ジョアンナ・ジョンストン

    2012年11月20日『たまむすび』より

     

    今回は、巨匠スティーブン・スピルバーグ監督の新作で、『リンカーン』(Lincoln)という映画です。これはあの、「エイブラハム・リンカーン」ですね。アメリカにずっとあった奴隷制度を撤廃して、南北戦争で、奴隷制度を続けようとする南部が独立したので、それと戦争をして勝って、アメリカから奴隷制度を無くした大統領、リンカーンの話でタイトルはそのものずばり『リンカーン』なんです。

     

    そうすると、リンカーンの伝記映画かなと思うんですけど、観てみたら全然違って、リンカーンというと1番有名なのは、演説ですよね?1863年に、ゲティスバーグでの南北戦争での大戦闘の後に、そこでゲティスバーグ演説っていうのを行なって、「人民の人民による人民のための政治」って言葉を言いまして、それはもう、全世界で、みんな知ってる言葉なんですけども、その演説シーンも無い・・って言うか、その演説が終わったあとから話が始まるんです。

     

    映画が始まる段階で見せ場であるはずのその演説がもうすでに終わってるんです。

     

    で、もう1つ有名なのは「奴隷解放宣言」というやつですが、この映画の中だとそれも・・・終わってるんです。つまり、1番の見せ場の2つが無いんです。しかも、リンカーンというと、また有名なのは、暗殺されたことですよね?それも無いんです。この映画の中には。暗殺シーンが。 1番有名な3つの事件が無いんです。

       

    だからちょっとビックリしたんですけど、この映画はアメリカの「合衆国憲法修正第13条」っていうものを、下院議会(日本で言うと衆議院)で議決する、っていう話だけ、なんですよ。ナント!「修正第13条」っていうのは、憲法で奴隷制度を禁止するっていうことです。 一切の奴隷制度を禁止するっていうのを、議会で、3分の2の票があれば、議員が賛成すれば憲法になるんですけれども、それを議決するまでの話、というか、その議決のドラマだけなんです、この『リンカーン』という映画は。

     

    「これで大丈夫なのかな?」「映画として成立するのかな?」と思うんですけども、ちゃんと成立してるんです。それが面白いなあと。

     

    リンカーンを演じる人はダニエル・デイ=ルイスって人です。この人は何度もアカデミー賞を取ってます。『マイ・レフトフット』(My Left Foot)、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(There Will Be Blood)、『ギャング・オブ・ニューヨーク』(Gangs of New York)とか、そういう映画に出てますが、この人は、どの映画も、ギャーギャー叫びながら物を振り回して、人を殴ったり物を壊してる役ばっかりなんですよ!非常にアブナイ人なんですけども、この映画ではリンカーンを演じてて、もうホントに静かで、甲高い声なんですが、ボソボソとしか喋らない役、っていう、今までのダニエル・デイ・ルイスとは違うバージョン、入ってました。

     

    赤江珠緒:お顔も口ひげの、いわゆるリンカーンの髭をちゃんとつけて・・・思慮深いお顔になってますもんねえ。

     

    なってますねえ。もう、超ソックリなんです。今までの映画では人をぶん殴って「ガー!」とか言ってたのと全然違うんで(笑)、アレ?と思ったんですけどね。

     

    で、まずその、3分の2の票を取らなければならないってのは、ものすごく大変なことなんです。と言うのは、その当時のアメリカの下院議員には3分の1よりちょっと多めに、民主党員がいるんです。これ、凄く面白いことなんですけども、今現在アメリカでは、民主党っていうと、オバマさんだったりヒラリーさんだったり、いわゆるマイノリティー、有色人種の人であるとか、アジア人であるとかメキシコ系の人とか、女性が、支持している党、リベラルな党、が民主党です。

       

    共和党ってのはこの間ロムニーさんが出ましたけど、ロムニーさんに投票した人達の88%が白人だったんですが、現在の共和党ってのはそれぐらい白人党なんですね。ところがこの当時、南北戦争の時はリンカーンが共和党にいて、北軍てのは共和党政府で、奴隷制度を続けようとしてた南軍は、民主党なんです。逆だったんです。

     

    当時は、民主党ってのは、いわゆる田舎の労働者とかの政党で、共和党ってのは、金持ちとかインテリの党だったんです。今現在の民主党は都会のインテリが多くてひっくり返っちゃってるんですね。現在、共和党はアメリカでは田舎のキリスト教原理主義の人とかが多いんで、支持政党がひっくり返ったんですけども、これはひっくり返る前の話なんです。

     

    で、民主党の政権をとった南部が独立して、アメリカ連邦と戦争をしてるわけですが、その中で、北の北部の方にもまだ民主党員が残ってるんです。彼らは奴隷制度にも賛成だし、南軍との戦争には反対なんです。これがアメリカの連邦議会に3分の1以上、3分の1ちょっと、まだいるんですね。当時は、その人達は頑迷だから「マムシちゃん」て言われてるんですが、この民主党員が賛成しなければ、憲法っていうのは3分の2以上の賛成が無ければ修正出来ないんです。だから、この奴隷制度の撤廃は出来ないかもしれない、っていう事態になって、いかにその民主党員を党議拘束から放って、奴隷制度撤廃に投票させるかっていう、戦いの物語なんですよ。

    山里亮太:知能戦とういか、駆け引きとか・・・

     

    そう!その通りなんです。南北戦争映画なんだけどアクションシーンとか無くて、徹底的な、その政治戦略の話なんです。

       

    で、これが凄く意外だったのは、リンカーンて人は、あだ名が「正直エイブ」っていうあだ名だったんです。とにかく正直者で、貧乏で丸太小屋で育って、もう一生懸命に勉強して弁護士になって、っていう人だっていうふうに言われてて、とにかく正直で真面目な人っていうふうに思われてたんですが、この奴隷制度を撤廃するために、ありとあらゆる策を尽くすんです。

     

    どういう風にやるかっていうと、いわゆるロビイストみたいな人がいて民衆党側で口が聞ける3人組を選んで、その3人組を使って、議員1人ひとりの懐柔を、裏で企むんです。(「かいじゅう」ってのは「ガー!」って怪獣じゃなくてですね)巧妙に抱き込んでいくんです。まず、もし奴隷制度撤廃に投票してくれたら「君を新しい内閣に登用しよう!」とか、「いい役職につけてあげよう!」とか、「あ、なんかここにお金があるなあ。コレちょっと持ってく??」みたいな、ありとあらゆる、手を使うんです!これは凄く意外で、リンカーンて人がこうであったのか、ってところを、知られざる歴史の一面を見せるんです。

       

    それをやりながら一方で、共和党はその当時リベラルですから、内部には物凄いリベラルな人達がいるんですよ。この奴隷制度撤廃の最終的な目標っていうのは、完全な、全ての人種の平等なんだ、って言ってる人がいるんです。その人はサディアス・スティーブンスっていう共和党の議員なんですけど、これ、トミー・リー・ジョーンズが演じています。コーヒー飲んでるボスですね。あれで物凄いギャラを貰って、こういういい映画に安いギャラで出てるんで、日本のコーヒー会社のお金は、トミー・リー・ジョーンズに入ることによって、日本はイイ事をしてますね!

     

    このトミー・リー・ジョーンズがやってる役っていうのは、黒人の人達と「完全に」平等にするんだ、って言ってる人なんですが、その当時は、ホントにそこまで思ってる人達は、奴隷制度を止めよう、って言ってる人にもあんまりいなかったんです。つまり当時は「奴隷制度って酷いから辞めよう」とは思ってるけれども、「黒人と白人が平等」だとまで思ってる人はそんなにいなかったんです。ていうのは、「もしこれで奴隷制度を撤廃したら、その後はどうするんだ」、「黒人に投票権をあげるのか?」、「黒人が大臣になってもいいと思ってんのか、お前らは?!」って民主党側が言うんですね。

       

    今考えると、全然、「当たり前じゃん!」とか思うんですが、このトミー・リー・ジョーンズ扮するサディアス・スティーブンスが、「アメリカの独立宣言には、全ての人間は平等に神によって創られた、って書いてあるじゃないか!」って言うと、民主党側が、「神によって平等に創られたのは白人だけで、黒人は違う!」って言うんです。それをみんなが拍手して「イエ~!そうだ!イエ~イ、イエ~イ!」、「さんせーい!!」と。これは、凄く、見てて気持ち悪くなってくるんです。当時の人は、当たり前のように言うんですけども、やっぱり信じられないようなことが、わずか150年前にあったんですね。

     

    で、もっと驚くのは「もし黒人に投票権を与えて、じゃ、その次はどうするんだ?」、「女に投票権を与えるのか?!バカバカしい!!」って言うんです。黒人に投票権を与えるよりも、女性に投票権を与える方が、もっととんでもないことだと、当時は思われてるんです。このぐらい酷かったんです。「女性に投票権を与えるなんてとんでもない!」って言うと、みんなが、「イエ~イ!そうだー!」って言うんです。何なんだ?コレ?っていう・・・見ていると、やっぱり世の中良くなったなあ、と思いますよ。

     

    ただ、このサディア・ススティーブンス、トミー・リー・ジョーンズが「徹底的な平等」って言うから、かえって民主党側が絶対に引かなくなっちゃうんですね。黒人の完全な平等ってのは許せないから、引かなくなるんで、今度はリンカーンは、その超左側の人である、共和党の左派のサディア・ススティーブンスを説得して、「もっと妥協してくれ」、「完全な平等じゃなくて、政治的な平等ってことだけでいいから」、「法的な平等だけでいいから」というふうに撤退してくれないか、って言うんです。今度は説得工作をするんですね。「そんなに過激に言わないでよ」と。「いつか、あななたの求めている完全な平等も達成されるだろうけども、今は、言わないで」と。「今は妥協して」って言うんです。これは、リンカーンが、右も左も両方見てものすごく妥協点を狙って行くっていう、『リンカーンの政治的天才』(TEAM OF RIVALS The Political Genius of ABRAHAM LINCOLN)ってタイトルの本が原作なんです。

    赤江珠緒:今の政治、日本にもそんなことが言えるような気がしてきましたけどもねえ。

     

    そう。だから党議で完全に決まっちゃって、与党がこうだって言うと野党はもう「全員」が反対する。で、決議が全然進まない、国が前に進まない。これじゃダメなんだよ、ってことなんですね。リーダーっていうのは、そういう、党を超えたもので本当に大事なことを決定するんだ、と。本当に大事なことを実現するためには、「どこまで交渉するか、妥協させるかってことなんだよ」ってことを言いたくてこの映画を作ってるんです。

     

    何故これをスピルバーグが今作ってるかって言うと、これはやっぱり観てて思うのは、オバマ大統領が2009年、2010年にやった「医療保険改革法」なんです。アメリカっていうのは、今までずっと、日本で言う「国民健康保険」が無かったんで、一回重い病気に罹った人は、2度と保険会社が入れてくれなかったんです。僕なんかは喘息だったんで保険会社に入れてもらえなかったんですよ。あと、貧しい人とか失業した人とかも、高くて入れなかったんですね。

     

    これを何とかしなきゃってことで、日本やヨーロッパみたいな国民健康保険をオバマさんは作ろうとしたんですが、これはものスゴイ反対を食らったんです。どうしてかって言うと、それが作られたら医療保険会社が潰れちゃうから、医療保険会社が共和党のバックについてるんで、共和党は絶対的に反対してたんですね。で、これに対してオバマは、最終的には「保険にどうしても入れない人の分だけ、国が負担する」、「国民健康保険は作らない」と、結局「妥協」していったわけです。貧しい人達とか病気になった人達の保険料を国が負担して、普通の医療保険会社の保険に入る、っていう法律に妥協したんですね。で、それでなんとか通そうとしたんです。結局通りましたけど、この『リンカーン』を観てると、すごくあれを連想させるんですよ。

    山里亮太:オバマさんはリンカーンに憧れてるというか・・・

     

    そう。オバマさんは元々イリノイ州のスプリングフィールドから大統領選に出馬したんですけど、それはリンカーンが出てきたとこと同じ町なんです。この映画の中で、「黒人が選挙に参加するなんて、とんでもない!」とか言ってるんですけど、今は黒人の大統領の時代ですよね。だから、今観るのって、凄く意味がある感じがするんです。

     

    スピルバーグってのは、非常に政治的な映画を、政治的だって言わないでコッソリ作るタイプの人で、今回も『リンカーン』を作ったのは偶然で、「別に今、言いたいことがあってやってるわけじゃないよ」とか言ってるんですが、実際はオバマさんに、もの凄く選挙資金とかを寄付したりしてるんです。

     

    この人は前に『ミュンヘン』(Munich)て映画を作ってるんです。それは、ミュンヘンオリンピックの時に、パレスチナゲリラがイスラエルの選手団11人を襲撃して皆殺しにして、それに対してイスラエルのモサドっていう諜報機関が11人のパレスチナのリーダー達を暗殺するという形で報復した、っていう事件を描いた映画だったんです。

     

    なんでそれを今作ったか?っていうことで、ただ黙ってその映画の最後で、ニューヨークの世界貿易センタービルを見せるんです。あれは911テロで破壊されたんですけども、それを見せることによって「殺されたからって、殺し返すってことをやったら、永遠に戦争は終わらないぞ!」ってことを、スピルバーグは言いたかったんですね。ただ「そうだよ!」っていうふうに大きな声でみんなに対して言うんじゃなくて、「黙って」そのツインタワーを見せるんです。「やられたらやり返す、じゃ戦争が続くだけだ」と。

     

    スピルバーグ自身はユダヤ系の人なんですけども、この映画でイスラエルの報復に対して批判したんで、イスラエルから徹底的に叩かれたりしてるんです。だからそういうことじゃ無いんだよ、と。ユダヤ人だからどうこうとか、そういうことじゃないんだよ、って人がスピルバーグなんです。

    この『リンカーン』て映画も、リンカーンが本当の、本音を出すシーンてのがあるんです。「今ここで奴隷を開放する、ってことが大事だっていうことじゃないんだ!今ここで開放すれば、その黒人の子孫の、それこそ何千何万という子孫が、永遠に続く何百年と続く子孫達も開放されるんだ!だから、絶体に、これをやんきゃいけないんだ!そのためだったらどんなことでもする!」ってやるんです。 そこで非常に感動しましたね。

     

    今日本で政治とかで、党の中でだれも逆らわないし一方が全部反対しちゃうから、何やってもなかなか決まらないじゃないですか。でもそれじゃ、何も!進まないんですよ。1番大事なのは未来を見ることだと思うんです。

     

    ここで、奴隷制度撤廃で反対した議員達の名前ってのは、みんな残ってるわけですけど、コレ、永遠に、1000年も2000年も笑いものですよ!奴隷と黒人は人間じゃ無い、とか言ってた人達ってのは、もう、1000年も2000年も、10000年も、永遠にこの人達は笑いものですよ。

     

    だから、歴史を見て、判断することですね。その場その場の政治的駆け引きじゃなくて、全ての人は自分が歴史の中でどう記憶されるかを判断して、決めなければいけない・・・と、思った映画がスティーブン・スピルバーグの新作『リンカーン』でした。

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